ちいさなやくそく






あれれ…?ここはどこだろう…。

きょろきょろと辺りを見回す。
おれのうしろにはみなれた教会。

あ、そうだ、木の実をいくつかとってこようと思ったんだっけ。
神父さまが夜のごはんに使うかもしれないからって。

てくてくとほんの少しはなれた木のところまで歩く。
見上げると、あかい木の実がいくつもなっている。
ってことは…。
そのまま今度は下を見て、お目当てのものを探す。

あったあった。たくさん落ちてる。
にへっと笑ってから木の実をいくつか手に取った。
つやつやしてとても美味しそうだ。
これが、神父さまにかかるとまほうみたいにもっともっと美味しくなる。
どんなごはんが出てくるのかなぁ、考えただけですごく楽しみだ。

木の実を落とさないように来た道を戻って、開いたままの教会のとびらをくぐる。

「神父さまっ、ただいま〜!おいしそうな木の実がとれましたっ。」

神父さまのもとへ走ろうと思ったその時。
教会の前のほうの席、はじっこの所にだれかのあたまが見えた。

めずらしい…ここは森のおくだから、そんなにおとずれる人が多いわけじゃないのに…。
それに、もしかして、子ども…?
おれと、同じくらい…?ここに子どもが来ることなんてもっともっとめずらしい。
でもでも、もしそうだったら、そうだったら……。

「おかえりなさい、イクス。…本当だ。随分と美味しそうなものを選んできましたね。」

優しく微笑みながら歩いてくる神父さまの声に、はっとする。
おれは木の実をかかえたまま、ぼーっとその子をみていたみたいだ。…はずかしい…。


「はっはいっ。神父さまっ、どうぞ!」

たどたどしく、それでもなんとか手からこぼさないように神父さまに木の実を手わたして、
おれは気になっていたことを聞いてみる。

「あ、あの…神父さま…あの、あそこに、座ってる…」

彼に聞かれたら気分をわるくしてしまうかもしれないから、そっとそっと、小さなこえで。

「…ああ、彼ですか。ここにあなたと同じくらいの子が来る事はそうないですからね…。
 とてもいい子です。きっと、仲良くなれると思いますよ。」

にっこりと、神父さまが笑った。

ほんとう?なかよくなれるかな?ともだちに、なれるかな??

「ええきっと。…せっかくだから、夕ご飯まで一緒に遊んできたらどうですか?」

神父さまはそう言うとやさしくおれのあたまをなでてくれた。
おれはそうして神父さまが奥の部屋でご飯のじゅんびをはじめるのを見届けると、
どきどきしながらその子がいる席に向かった。

きんちょうして、ヒレがぴーんってなってるのがわかる。
近づいて、声をかける前にしんこきゅう…


「…あ…。君は…。」

はっ!
声をかけようと思ったら、先にその子がおれに気づいて声をかけてくれた。
おちついた茶色のみじかい髪と、ふかい色の目。
空みたいないろの肌…
なんだか、きれいだ。

でも返事もしないでじろじろ見ていたらしつれいだよなっ!
はずかしくてほっぺたがあつくなっていたけど、勇気を出してはなしてみた。

「あっ、お、おれはイクス!ここの教会に神父さまとすんでるんだ…っ。」

手をパタパタ動かしながらいうおれを見て、その子はくすりと笑った。

「おどろかせちゃったかな。ごめんね。僕はクロウ。よろしく、イクス。」

クロウ、っていうんだ…。
どきどきしてぼーっとしているとクロウが手を差し出してくれた。
あわてておれも手を差し出す。
あったかい握手。
なんだかすこしおちついて、自然と顔がにこにこしてくる。

「となり、すわっていい?あの、あの、神父さまが、ご飯まであそんでていいって…その…っ、クロウ、よ、よかったら、おれと遊んでくれる…?
 ここ、あんまり、人がこなくて…きても大人の人ばっかりなんだ…だ、だから…っ。」

…いっしょうけんめいになりすぎて、なにをいってるか分からなくなってきちゃったぞ…。
ぐるぐるするおれを優しく見つめて、クロウはうなずいてくれた。

「うん、もちろんいいよ。なにしてあそぼうか?」

そのことばがうれしくてうれしくて、駆けまわってしまいそうだった。


そうして、おれはクロウと教会の周りを歩いたり、本をよんだり、とてもとてもすてきな、楽しい時間を過ごした。
クロウはおれよりもちょっぴりおにいさんだった。
あわててクロウさん、って呼んだら、クロウのほうがいいって、いってくれた。
おにいさんなクロウはおれよりもいろんなことを知っていて、クロウがはなしてくれることはどれもこれもおどろきがいっぱいだった。
おれがしってることは少なかったけど、それでも森のこととか、教会のこととか、色んなことをはなした。
そのたびにクロウはとてもやさしい顔で笑ってくれるんだ。
それから、クロウも僧侶をめざしてるんだって。いっしょだね、ってふたりでわらった。
いつか、ふたりとも僧侶になったら、いっしょに旅とか、してみたいな…。


「もっと、クロウといっしょにいたいな…。」

思わず口に出てしまったことばに、クロウがこっちを向いた。

「…クロウは、いつまでここにいられるの…?きょう?あした?」

クロウはじじょうがあってここにいたんだろうから、おわかれしなきゃいけないのは分かってる。
でも、さっきまでがたのしくてあったかくて、やっぱりさびしくなってしまう。

「…できれば、ずっと、いたいね。」

おれの顔を見て、やさしい声でこたえるクロウ。

その時、おれひらめいたんだ。

「じゃ、じゃあっ、おれ大きくなったらクロウとケッコンするっ!」

「え、えええっ…!?あ、いや…その…」

だって、絵本にかいてあった。
王子さまに助けてもらったお姫さまはケッコンして、ずっといっしょにくらしたんだって。
ってことは、ケッコンしたらずっといっしょにいられるってことだよなっ。
でも、ケッコンは大きくならないとできないんだって!

「んと、だから…やくそくっ。」

ちょっとてれくさかったけど、あかくなったクロウのほっぺたにちゅってしてみた。へへへ。

「!!イ、イクス…っ…!」

まっかになってとまどうクロウに、ちょっぴり不安になる。
あれれ?おれ、何かまちがえた??それとも、困らせちゃったかな。

「うー…だめだった…?」

困らせたいわけじゃなかったんだけど…。

「いっ、いや…そんなことない…!……。い、いいよ、じゃあ、約束ね…っ。」

こくんとうなずくクロウに、おれはうれしくなってとびついた。
なんでだろ、なんでこんなにうれしいのかな。

…ああそっか。


だって、こんなにクロウのこと…。





周りのけしきがぼんやりしてくる。


そして全部がぐにゃりと混ざって……。







「……ん…。あれ…。」

ぱちりと目を開ける。
目に飛び込んできたのは見慣れた天井。
もそもそとゆっくり上体を起こす。

ああ、そうか。夢、だったんだな…。
そうだよなあ、あそこにクロウがいるなんて事、あるわけないもんな。
それにしても、ちっちゃいクロウ、可愛かったなあ…。

思わずくすりと笑みを零した俺の耳に、小さな声が聞こえてきた。

「んん…。……イクス…?…おはよう…。」

隣で寝ていたクロウが目を覚ましたみたいだ。

「あ…おはよう。…ごめん。起こしちゃったか…?」

言いながら振り向いて顔を見ると、いや…と答えてクロウが手を伸ばしてくる。

「ふふー。」

応えるように再びベッドに体を戻し、クロウに凭れ抱きつく。
んー、あったかくていい匂い。

「今な、…楽しい夢見てたんだ。」

「夢…?へぇ、どんな…?」

クロウが俺の背に腕を回して抱きしめてくれる。

「子供の頃、教会にいた時の夢。神父様もいたよ。
 でなっ、なんとクロウもいたんだよ!」

俺は夢の内容をかいつまんで話した。
気づいたら子供になっていて、木の実を拾いにいったこと。
戻ってきたらクロウがいたこと。神父様と話したこと。
それから子供の俺とクロウが過ごした時間のこと。


「そうか…それは楽しそうな夢だね。俺も見たかったなあ。」

俺の表情につられたのか、クロウも楽しげだ。へへ。

「それでな、俺、、大きくなったらクロウと結婚する!ってクロウにキスしちゃってさ…。
 そしたらちっちゃいクロウ、真っ赤になっちゃって…。」

思い出す自分の短絡さと子供のクロウの表情に頬を緩ませる。

「えええ?それは驚くなぁ。…でも、イクスはそしたら俺とずっと一緒にいられると思って
 そうしてくれたんだね。」

やっぱり俺もその夢を見たかったな、とくすりと優しく笑みながら、クロウが俺の髪を撫でる。
それからころんと俺を仰向けにさせると、そっと唇に口付けた。

「んっ…。」

少しだけ驚いたけど、甘くて優しいキスにふわりと目を閉じる。
応えるように少し唇を動かすと、ちゅ、と軽く音と立てて唇が離れていった。
ゆっくり目を開けると、クロウは今度は俺の左手の薬指に口付けた。
その指には、クロウがしているのと同じ指輪が光っている。

「クロ、ウ…?」

「……約束…でしょ…?」

顔を上げてどこか嬉しそうな顔で言うクロウ。
そう、夢の中でした子供の俺とクロウの約束は、今確かにここで叶っている。
夢の中で俺が望んだ二人で僧侶として旅をする事も。
こうして一番近くで過ごせる事も。

それが嬉しくて、幸せで、俺はクロウがしてくれたようにクロウの左手の薬指に口付ける。

「大好きだ、クロウ…。」

そのままぎゅうっとクロウに抱きついて、その顔を見つめる。

「俺も、愛しているよ、イクス…。」

そうして俺は、クロウの言葉と表情に、吸い寄せられるように再び口付けるのだった。





おわり




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